
もくじ
はじめに
海の中の“森”と呼ばれる「藻場(もば)」は、海洋生物のすみかであり、二酸化炭素を吸収して地球環境を守る重要な存在です。しかし、近年全国各地でその藻場が激減する「磯焼け」現象が深刻化しています。その主な原因とされるのが、ウニなどの食害と、海水環境の悪化です。
こうした中、今注目されているのがUFB(ウルトラファインバブル)技術とウニ養殖を掛け合わせた新たな藻場回復のアプローチです。本記事では、最先端技術と養殖の力を活用した海洋修復の取り組みに迫り、藻場再生の未来を一緒に考えていきます。
第1章:UFB技術とは?海洋環境への応用と可能性
■ UFB(ウルトラファインバブル)とは?
UFBとは「ウルトラファインバブル(Ultra Fine Bubble)」の略で、直径1μm(マイクロメートル)未満の極小気泡を意味します。水の中に目に見えない微細な泡を発生させる技術で、農業や医療、美容の分野でも応用が進んでいます。
その特徴は、
- 水中に長く滞留すること
- 溶存酸素量を増加させること
- 微生物の活動を活性化させること
- 表面洗浄効果が高いこと
といった点にあります。特に海水中でのUFBの活用は、水質改善や底質の浄化、さらには水中生物の成育環境改善に効果があるとして注目されています。
■ 海洋環境へのUFBの具体的効果
海にUFBを導入することで期待される効果は多岐に渡ります。たとえば、
- 溶存酸素(DO)濃度の上昇により、底層に酸素が届きやすくなり、嫌気的な(酸素が少ない)環境の改善につながります。
- 微細藻類や海藻類の生育促進に寄与し、藻場形成をサポートします。
- 有害物質の分解促進によって水質が安定し、藻場の再生に適した環境が作られます。
これらの要素は、すべて藻場の再生に不可欠な基盤であり、従来の物理的な修復手法とは異なり、環境そのものの“自己治癒力”を高めるアプローチであることが特徴です。
■ 導入事例の広がり
UFB技術は近年、日本各地の海洋修復事業で導入が進んでいます。漁港や内湾などで水質改善のためのパイロットプロジェクトが実施されており、藻場や干潟の回復を目指す地域では注目度が急上昇しています。
特に、これまで手の届きにくかった浅場・砂泥域などの環境回復に向いているとされ、海藻類だけでなく魚類や甲殻類の産卵場としての機能再生も期待されています。
第2章:ウニ養殖による藻場保全の役割
■ 磯焼けの主因「ウニの食害」とは?
日本の沿岸ではここ数十年、「磯焼け」と呼ばれる現象が深刻化しています。これは、かつて豊かだった海藻が消失し、海底が裸地化する状態を指します。藻場が失われることで、海の中の生態系が一気に崩れ、多くの魚介類が棲めなくなってしまいます。
この磯焼けの大きな原因のひとつがウニによる過剰な食害です。特にキタムラサキウニやバフンウニは、海藻を旺盛に食べ続け、周囲の藻場を壊滅させることがあります。本来であれば、魚などの捕食者がウニの個体数を抑制していたのですが、環境の変化や漁獲バランスの崩れによってウニが増えすぎた結果、藻場が持続できなくなったのです。
■ ウニの「敵」から「味方」へ:養殖で逆転の発想
そこで注目されているのが、ウニを駆除対象ではなく「資源」として活用する養殖技術です。餌不足で痩せた「無価値」とされていたウニを、人工餌や栄養価の高い飼料で育て直し、商品価値のあるウニに変えるという逆転の発想です。
この方法では、
- 磯焼けを引き起こす痩せたウニを漁獲し、
- 陸上や海上いけすで短期肥育(約2〜3か月)、
- 高品質なウニとして出荷・販売する
という流れが一般的です。
これにより、藻場を守りながらウニの価値も高める“漁業と環境保全の両立”が可能となります。
■ UFBとの相性が良い「閉鎖循環型養殖」
特に注目されているのが、UFBを取り入れた閉鎖循環型のウニ養殖です。この方式では、ウニの養殖水槽にUFB処理された海水を循環させることで、
- 酸素供給量の向上
- 餌の消化吸収の促進
- ウニの成長速度アップ
- 水質安定による病気リスクの低減
といった効果が見込まれています。これにより、養殖効率とウニの品質が飛躍的に向上するだけでなく、放流や天然藻場への影響も最小限に抑えることが可能になります。
■ 藻場の再生と経済価値の両立
藻場を食べ尽くしていたウニを資源化することで、自然再生と経済活動の両立が実現します。これは、従来の「駆除一辺倒」のアプローチから、「共生と循環」を重視した新しい海洋資源管理の形と言えるでしょう。
さらに、ブランド化された“養殖ウニ”は、品質・味ともに安定し、高級料亭や寿司店、EC市場での展開も進んでいます。環境保全の成果が、直接地域の経済に還元されるモデルとしても注目を集めています。
第3章:UFB × ウニ養殖の現場──成功事例と課題
■ 北海道・岩手・長崎などで進む実証事業
近年、UFB技術とウニ養殖を組み合わせた藻場回復プロジェクトは、北海道・岩手・長崎など海の環境保全が急務とされる地域で実際に始動しています。
特に岩手県の一部地域では、地元漁協と水産ベンチャー企業、大学研究機関が協力し、痩せたウニの回収・UFB水を用いた肥育・藻場の回復調査という一連の取り組みを進めています。ここでは、わずか数ヶ月で商品価値のあるウニにまで育て上げられ、地域ブランドとしての販売がスタートするまでに至っています。
また、長崎県ではUFB処理水を使った閉鎖循環型水槽でのウニ育成実験が行われ、藻場の被害軽減効果と養殖収益の両立を目指す動きが広がっています。
■ 現場で得られた効果
これらの実証事業では以下のような成果が報告されています:
- 痩せウニの出荷率が飛躍的に上昇(肥育後は平均重量が2倍以上に)
- 藻場回復の兆候が観察される地点が増加
- UFB水使用による養殖水槽の病原リスクの低下
- 地域漁協の収益多様化と若手就業者の関心拡大
このように、UFBとウニ養殖の融合は単なる「藻場再生」だけでなく、漁業経済の活性化にもつながる可能性が見え始めています。
■ 課題:コストと普及体制の壁
一方で、この取り組みにはいくつかの課題も残っています。
- UFB装置の導入・運用コストが比較的高額で、初期投資への支援制度が必要
- 漁業者側の技術習得・意識改革も必要で、普及には時間と教育が求められる
- 地域間で成果にばらつきがあり、海域ごとの環境条件に適した最適化が不可欠
また、放流・回収サイクルの構築には継続的なモニタリングと人材確保が欠かせず、地域ぐるみの支援体制が重要になります。
■ 今後の展望:次世代型海洋管理のモデルへ
それでも、UFB×ウニ養殖による藻場再生は、これまでにない「テクノロジーと自然の共生モデル」として全国的に注目されていることは間違いありません。
今後、国や自治体による制度的支援、UFB装置の小型・低価格化、漁協主導の啓発活動が進めば、この技術は持続可能な漁業と環境保全の象徴的モデルになる可能性を秘めています。
おわりに
磯焼けによって失われつつある藻場。これは単に海藻が減るだけでなく、多くの魚介類のすみかや産卵場所が失われるという、生態系全体に関わる重大な問題です。
今回ご紹介したUFB(ウルトラファインバブル)技術とウニ養殖の融合は、まさにその解決に向けた最前線の挑戦です。テクノロジーを駆使し、自然と共に歩むこのプロジェクトは、持続可能な海洋資源の管理と地域漁業の未来に光を当てる重要な一歩だといえるでしょう。
この取り組みはまだ始まったばかりですが、今後さらに多くの地域へ広がり、日本の海がもう一度「豊かな海」へと戻っていくことを私たちも願ってやみません。
魚忠ECサイトのご紹介
私たち魚忠では、今回ご紹介したような海の環境や水産資源に思いを馳せながら、日々新鮮で安心なお魚をお届けしています。創業70年以上の老舗魚屋として、確かな目利きと寿司屋の経験を活かし、お客様の食卓へ「おいしい、たのしい」を届けることを大切にしています。
海を守る技術と、海を味わう喜び。その両方を知っていただくきっかけとして、ぜひ当店のオンラインショップもご覧ください。
👉 魚忠オンラインショップはこちら
https://uochu.base.shop/
