魚豆知識

エビの赤色は本来の色じゃない?——加熱で起きる“色の化学”

もくじ

はじめに

お鍋の中でエビがみるみる鮮やかな赤色に染まっていく瞬間——料理をしていて、思わず見とれてしまいますよね。

でも、ちょっと待ってください。生のエビをよく見ると、実は赤くないんです。

スーパーで売っている生エビは、種類にもよりますが、

  • 黒っぽい色
  • グレーがかった色
  • 半透明で地味な色

こんな感じで、むしろ「地味」な印象。それなのに、加熱した途端、あんなに鮮烈な赤色に変わるなんて、不思議だと思いませんか?

実はこの変化、エビの体に秘められた「色の魔法」なんです。

赤色の正体は「アスタキサンチン」

エビの体には、もともとアスタキサンチンという赤い色素が含まれています。ただ、生きているときや生の状態では、この赤い色素がタンパク質にぴったりと覆われているため、赤色が見えません。

ところが、火を通すとタンパク質の構造が変わり、色素との結合が解けます。すると、今まで隠されていた鮮やかな赤色が一気に姿を現す——これが、エビが赤くなる仕組みです。

このブログで分かること

この記事では、エビの色変化について以下の3つのポイントを分かりやすくお届けします。

✓ エビの本来の色はどんな色?
生の状態では、なぜ地味な色をしているのか

✓ なぜ加熱すると赤くなるの?
色素とタンパク質の化学的な変化をやさしく解説

✓ もっと美しく仕上げる調理のコツ
プロ並みの鮮やかな赤色を引き出すテクニック

料理がもっと楽しくなる「色の科学」、一緒に見ていきましょう!

第1章:エビの"赤くない本来の姿"とは?

1. 生のエビはなぜ赤くないのか?

「エビといえば赤」——そんなイメージを持っている方は多いはず。でも実際にスーパーで生のエビを手に取ると、「あれ?赤くない…」と感じたことはありませんか?

そうなんです。生のエビは、実は赤くありません

むしろ、

  • 半透明
  • グレー
  • 茶色っぽい
  • 黒い縞模様

こんな感じで、かなり地味な色をしています。

じゃあ、あの鮮やかな赤色はどこへ?実は、エビの体の中に隠されているんです。

2. エビの色を決める主役「アスタキサンチン」

エビの赤色の正体は、アスタキサンチンという天然の色素。これはカロテノイドという色素の仲間で、

  • 鮭(サケ)
  • カニ
  • イクラ

などにも含まれている、あの鮮やかな赤色の元です。

エビは、海の中でプランクトンなどを食べることで、このアスタキサンチンを少しずつ体内に蓄えています。

「じゃあ、なんで生のエビは赤くないの?」

それは、アスタキサンチンがあるタンパク質と結びついて、色を変えてしまっているから。赤色が、青っぽい色や黒っぽい色に"変装"しているんです。

3. タンパク質「クラスタシアニン」が赤色を覆い隠す

その"変装"の正体が、クラスタシアニン(Crustacyanin)というタンパク質。

このクラスタシアニンは、アスタキサンチンにぴったりとまとわりついて、赤色の光を吸収し、別の色に見せてしまう働きをします。

まるで、赤いライトをフィルターで覆って、青や黒に変えてしまうような感じです。

だから、エビ全体が、

  • 灰色
  • 黒っぽい色
  • 茶色

こんな地味な色に見えるんですね。

4. 種類別:エビの生の色はこんなに違う

ひとくちに「エビ」といっても、実は種類によって生の色はかなり違います。

● ブラックタイガー

名前の通り、黒い縞模様がくっきり。クラスタシアニンが多く、見た目はかなり黒っぽい印象です。

● クルマエビ

黒茶色の美しい縞模様が特徴。加熱すると発色が鮮やかですが、生の状態では控えめな色。

● 甘エビ(ホッコクアカエビ)

やや透明感があり、うっすらと赤みを帯びた色。アスタキサンチンの含有量が多いため、生でも少し赤く見えることがあります。

● ボタンエビ・アマエビ

透明感のある淡い赤色。殻が薄いので、中の色素が透けて見えやすいタイプです。

● 赤エビ(アルゼンチンアカエビ)

唯一、生でも赤に近い色をしているエビ。殻にアスタキサンチンが多く、クラスタシアニンの影響が少ないため、最初から赤っぽく見えます。

5. まとめ:生のエビが地味なのは"赤が隠れているから"

整理すると、こういうことです。

✓ エビには赤い色素(アスタキサンチン)がちゃんと含まれている
✓ でも、タンパク質(クラスタシアニン)と結びついて色が変わっている
✓ だから、生のエビは赤く見えない

つまり、エビの赤色は「消えている」のではなく、封印されているだけなんです。

では、この封印された赤色は、どうやって解放されるのでしょうか?

次の章では、加熱によって起こる劇的な色の変化の秘密を、詳しく解説します。

第2章:なぜ加熱すると赤くなるのか?色変化の科学

まずは"色の変化"を整理しましょう

灰色がかった地味な生エビが、お湯に入れた途端、パッと鮮やかな赤色に染まる——この劇的な変化、一体何が起きているのでしょうか?

答えは、エビの体内で起こる化学反応にあります。

キーワードは2つ。

  • アスタキサンチン(赤い色素)
  • クラスタシアニン(青っぽく見せるタンパク質)

この2つが熱でほどける瞬間、封印されていた赤色が一気に解放されるんです。


① 加熱の正体は「タンパク質がほどける」こと

エビの赤色を覆い隠していたクラスタシアニン(タンパク質)は、60〜70℃の加熱で立体構造が崩れ始めます。

これを専門用語で「タンパク質の変性」と呼びます。卵が固まったり、お肉に火が通ったりするのと同じ現象です。

熱で結合がほどけるとどうなる?

✓ 赤い色素アスタキサンチンを**"青っぽく見せていた結合"が壊れる**
✓ 本来の赤色の光がそのまま反射されるようになる
隠されていた赤色が一気に現れる

つまり、エビは最初から赤かった。ただ、その赤色が隠されていただけ。

加熱することで、やっと本来の姿が見えるようになるんです。


② "茹でる・焼く・蒸す"で色の出方が違う理由

同じエビでも、調理法によって赤色の鮮やかさや濃さが変わることに気づいたことはありませんか?

これは、温度の上がり方水分の逃げ方が違うからです。

● 茹でる(ゆでエビ)

  • 全体がまんべんなく60〜70℃に到達
  • 色が均一に赤くなる
  • 水分が保たれて、ぷりっとした発色

→ 一番"教科書通り"の鮮やかな赤色が出ます

● 焼く(焼きエビ・ソテー)

  • 表面は高温で素早く変性
  • 内側はゆっくり加熱
  • キツネ色を帯びた濃い赤色

→ 香ばしさとともに、赤が深みを帯びます

● 蒸す(蒸しエビ)

  • 湿熱でゆっくり加熱
  • 透明感を残した淡く上品な赤

→ 料亭の"蒸しエビカラー"は、この方法で生まれます

同じエビでも、調理法を変えるだけでまったく違う赤色の表情が楽しめるんですね。


③ 黒くなるのは失敗?実は"火の通しすぎ"が原因

エビを加熱しすぎると、赤というより黒っぽく、くすんだ色になってしまうことがあります。

これは失敗ではなく、タンパク質が強く締まりすぎたサイン

主な原因

  • 強火で長時間加熱しすぎた
  • 殻と身の間の水分が抜けすぎた
  • 酸化が進んでしまった

解決策

茹で:沸騰後すぐ弱火 → 2〜3分で止める
焼き:中火で色が変わったら即裏返す
蒸し:80〜90℃の弱めの蒸気で短時間

エビの色は、火の通し加減を教えてくれる目印でもあるんです。


④ 種類別:赤色の出方の違い

エビの種類によって、加熱後の赤色にも個性があります。

● ブラックタイガー

→ もともと黒いが、加熱で鮮やかな朱赤に変わる。発色は強め。

● 車海老

→ 赤みが濃く、縞模様が美しく残る

● ボタンエビ・甘エビ

→ 身が透明で、淡いサーモンピンクに。

● 赤エビ(アルゼンチンアカエビ)

→ 生でも赤いが、加熱でより深い赤に。

同じ「赤」でも、それぞれに違った魅力がありますね。


⑤ まとめ:赤くなるのは「隠れていた赤が現れるだけ」

エビの赤色は、

アスタキサンチン(赤)× クラスタシアニン(隠す)

この組み合わせによる**"熱変化"**の結果です。

✓ 生は黒・灰色 ↔ 赤は隠されている
✓ 加熱するとタンパク質がほどけ、赤が解放される
✓ 調理法で赤の**"濃さ"が変わる**

つまり、エビが赤くなるのは新しい色が生まれるのではなく、封印が解けるだけ

料理は科学。そして、エビの赤色は化学反応が見せてくれる、小さな奇跡なんです。

第3章:色を美しく仕上げる調理テクニック

エビの赤色は、加熱すれば自然と現れます。でも、扱い方ひとつで鮮やかさが驚くほど変わるんです。

ここでは、家庭でも今日から実践できる"赤を最大限に美しく見せる技術"を、理由とともにお伝えします。


① 塩は"色出しのスイッチ"

エビを茹でるとき、プロは必ず塩(1〜1.5%)を加えます。

「味付けのため?」と思うかもしれませんが、実は色を引き出すためなんです。

塩が色を良くする理由

✓ 塩が入ると、エビの身が適度に締まり、タンパク質が均一に変性
✓ その結果、アスタキサンチンがムラなく発色
✓ さらに浸透圧の働きで水抜けが抑えられ、色が濁らない

結論:塩は"鮮やかさの調律役"

茹でエビを美しくしたいなら、塩水は必須です。


② 茹で時間は「短く・適温で」

エビの加熱は"ほんの数分で勝負が決まる"世界。時間が長すぎると、せっかくの赤色がくすんでしまいます。

茹で時間の目安

  • 小型エビ:1分半〜2分
  • 中型エビ:2〜3分
  • 大型エビ(車海老など):3〜4分

※ポイントは、**強い沸騰ではなく、弱めの沸騰(95〜98℃)**で数えること。

なぜ長くゆでると色が悪くなる?

タンパク質が過度に締まると、

  • くすんだ赤
  • 茶色がかった濃い赤

になり、美しさが損なわれます。

"火を通しすぎない" ——これが、鮮やかな赤を守る鉄則です。


③ 冷やしすぎNG!"余熱の魔法"で色が整う

ゆで上げた後、いきなり冷水にドボン――実はこれ、色をくすませるNG行動なんです。

正解は?

✓ ゆで上げ後、30秒だけ空気冷まし
✓ 粗熱が取れたら、軽く冷ます程度に氷水へサッとくぐらせる

(長く冷やすとタンパク質が縮がり、色が濁ります)

余熱が美しい赤を完成させる

急冷は避けて、ゆっくり温度を下げる。これだけで、透明感のある赤色に仕上がります。


④ 焼きエビは"中火でじんわり"が最強

強火で一気に焼くと、殻の表面だけが焦げて色が汚れます

焼きの黄金ルート

1. 中火で殻の色が変わるのを待つ
2. 色が半分ほど変わったら裏返す
3. 最後に"表面を整える程度"に強火を数秒当てる

この手順だと、

✓ 殻の模様が残る
✓ 透明感ある赤になる

まるで料亭クオリティのような仕上がりに近づきます。


⑤ 蒸しエビは"湯気の温度"が命

蒸し器の湯気が強すぎる(100℃以上)と、殻の色が**斑(まだら)**になってしまいます。

最適な蒸し条件

  • 湯気の温度:80〜90℃
  • 時間:3〜4分(中型エビの場合)

じんわり火が入ると、淡く上品な赤が出て、特に酢の物や寿司種に最適です。


⑥ ほんのひと工夫で"赤のコントラスト"が上がる

最後に、プロがやっているちょっとした工夫をご紹介。

● 背ワタを取る

背ワタが残ると背中が黒く見え、赤の鮮やかさが半減します。

● 殻付きで加熱する

殻が赤を強調し、身の色もより鮮明に。

● 下味に"少量の酒"

酒が臭みを飛ばし、透明感のある赤が生まれます。


まとめ:美しい赤は「丁寧な火加減」から生まれる

エビの種類特徴色出しのポイント
ブラックタイガー殻が濃い塩水で短時間ゆでる
車海老縞が美しい“余熱仕上げ”で縞模様を活かす
甘エビ半透明火を通しすぎない(蒸しは2分)
赤エビもともと赤い焼きなら中火でゆっくり

エビの赤色を最高に美しく仕上げるポイントは、

塩水で茹でる
短時間・適温で加熱
余熱を活かして冷ます
中火でじんわり焼く
蒸しは湯気の温度に注意

どれも難しいことではありません。でも、このひと手間が料理の仕上がりを格段に変えます

次にエビを調理するときは、ぜひ試してみてください。きっと、今までで一番鮮やかな赤色に出会えるはずです。

おわりに

エビが赤くなる理由——それは、ただの"調理の不思議"ではありません。

アスタキサンチン(赤い色素)× クラスタシアニン(青く見せるタンパク質)

この2つが織りなす、エビが本来持つ「色の化学」のドラマなんです。


生のときは地味な色でも、加熱によってタンパク質がほどけ、隠れていた赤色が一気に解放される

この仕組みを知ると、ゆでエビ・焼きエビ・蒸しエビの色の違いも、

「なるほど、だからこうなるのか

と、明確に理解できるようになります。


そして料理は、"理屈がわかると格段にうまくなる"分野です。

今回ご紹介した、

塩水での下処理
短時間加熱・余熱の活用
焼きの火加減の順序

などのポイントを知っておけば、普段のエビ料理は驚くほど美しい発色になります。


美しい赤色は、料理の魅力を大きく引き上げます。

見た目が良いだけで、食卓が華やぎ、食べる人の気持ちも明るくなる。

それは、科学の力を借りた、小さな魔法です。


ぜひ、今日の台所で試してみてください。

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