魚豆知識

1956年以来の危機—日本の水産業が直面する課題と解決策

はじめに

日本は四方を海に囲まれ、豊かな漁場に恵まれた“魚の国”として、長年にわたり世界有数の漁業国としての地位を築いてきました。
しかし現在、日本の水産業はかつてないほどの深刻な危機に直面しています。1956年以降、漁業者数や漁獲量は減少の一途をたどり、その減少幅と速度は戦後最大規模とも言われています。

漁師の高齢化、魚価の低迷、海洋環境の変化、そして世界的な食料安全保障の緊張――そのすべてが今、日本の漁業を追い詰めています。

本記事では、なぜ今「1956年以来の危機」と言われるのかを明らかにし、日本の水産業が抱える課題と、私たちにできる現実的な解決策を探っていきます。

第1章:なぜ「1956年以来の危機」と言われるのか?

● 漁獲量の歴史的減少

日本の漁業は、かつて世界有数の漁獲量を誇っていました。
しかし、1984年の1,160万トンをピークに、漁獲量は減少の一途をたどり、2022年には約386万トンと、1956年以降初めて400万トンを下回る過去最低を記録しました。
これは、1984年の約3分の1に相当します。

● 漁業就業者の急減と高齢化

漁業従事者の数も、過去40年間で約5分の1に減少し、現在は約20万人となっています。
また、漁業従事者の約30%が65歳以上の高齢者であり、若年層の参入が少ないことが課題となっています。

● 海洋環境の変化と資源管理の課題

地球温暖化による海水温の上昇や海洋環境の変化が、魚の生息域や回遊ルートに影響を与え、漁獲量の減少を招いています。
また、資源管理制度の不備や乱獲も、漁業資源の減少を加速させる要因となっています。

第2章:日本の水産業が抱える深刻な課題

● 漁業従事者の高齢化と後継者不足

日本の漁業現場では、深刻な人手不足と高齢化が進行しています。
特に沿岸漁業を中心に、漁業従事者の平均年齢は60歳を超える地域も珍しくありません。
後継者が見つからず、漁業をやめざるを得ない家庭や集落も増え、結果として操業数や出漁日数の減少につながっています。
この傾向は、漁業という仕事の「きつい・汚い・危険」というイメージにも関係しています。
長時間労働、不安定な収入、自然相手の厳しい現場という要素が、若者の参入を遠ざけています。
また、船や設備の老朽化も進んでおり、新たな投資が難しいという声も多く聞かれます。
さらに、知識や技術の継承も課題です。
長年の経験で培われた魚群の読み方や漁場の判断など、熟練者のノウハウが体系化されないまま失われる例も少なくありません。
IT技術で補完できる部分もありますが、現場感覚を持った人材が不可欠であることに変わりはありません。

● 資源管理の遅れと乱獲の影響

日本の水産資源管理は、他国に比べて規制が甘く、漁業者による自主管理が中心でした。
その結果、未成熟の魚も取ってしまう乱獲が続き、資源の枯渇を招いています。
例えば、サバは脂がのった大きなものをノルウェーから輸入し、小さなものをアフリカに輸出するという逆転現象が起きています。
2018年12月に成立した改正漁業法で、国が持続可能な水産資源の管理をすることが明記され、ようやくTAC(漁獲可能量)対象の魚種の拡大が検討されています。

● 海洋環境の変化と気候変動の影響

地球温暖化による海水温の上昇や海洋環境の変化が、魚の生息域や回遊ルートに影響を与え、漁獲量の減少を招いています。
また、黒潮の蛇行やエルニーニョ現象など、海洋環境の変動がスルメイカの回遊パターンに影響を与えていると考えられています。
これらの要因が複合的に作用し、スルメイカの漁獲量減少を引き起こしていると考えられています。

第3章:解決への道—現場・行政・私たちにできること

● 現場からの取り組み:後継者育成と労働環境の改善

漁業従事者の高齢化と後継者不足は、日本の水産業が直面する深刻な課題です。
これに対処するため、現場では以下のような取り組みが進められています。

  • 若手育成プログラムの充実:漁業体験や研修制度を通じて、若者に漁業の魅力を伝え、就業を促進しています。
  • 労働環境の改善:労働時間の短縮や休日の確保、福利厚生の充実など、働きやすい環境づくりが進められています。
  • 外国人労働者の受け入れ:特定技能制度を活用し、即戦力となる外国人材の受け入れが進められています。

これらの取り組みにより、漁業の担い手不足の解消が期待されています。

● 行政の役割:資源管理と制度改革

行政も水産業の持続可能性を確保するため、さまざまな施策を講じています。

  • 資源管理の強化:漁獲可能量(TAC)の設定や漁獲割当て(IQ)方式の導入により、資源の適切な管理が進められています。
  • 漁業収入安定対策事業:漁業者の収入減少時に補填を行う制度が整備され、経営の安定化が図られています。
  • 漁業法の改正:2018年の漁業法改正により、資源管理の強化や違法操業の罰則強化などが盛り込まれました。

これらの政策により、持続可能な漁業の実現が目指されています。

● 私たちにできること:消費行動の見直しと意識改革

消費者としても、水産業の持続可能性に貢献することができます。

  • 持続可能な水産物の選択:MSC認証など、持続可能な漁業で獲られた水産物を選ぶことで、資源管理の取り組みを支援できます。
  • 地元産品の消費:地元で獲れた旬の魚を積極的に消費することで、地域の漁業を支えることができます。
  • 食育の推進:学校や家庭で魚や海の大切さを学ぶ機会を増やし、次世代の担い手育成につなげることが重要です。

これらの行動が、持続可能な水産業の実現に寄与します。

おわりに

かつて魚の国と称された日本が、今、大きな転換期に立たされています。
漁業従事者の減少、海洋資源の枯渇、気候変動による生態系の変化――。
それは一過性の問題ではなく、1956年以来の危機といわれる深刻な局面にあるのです。

しかし、悲観するだけではなく、私たち一人ひとりにできることが確かに存在します。
現場では、若者や外国人の力を借りながら漁業を守る努力が続けられ、
行政は資源管理の強化や法整備を進めています。
そして私たち消費者も、正しい選択を通じてこの未来を支える立場にあります。

この海と生きる国の誇りを、次の世代へ。
持続可能な水産業の未来に向けて、今こそ日本全体が力を合わせる時です。

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