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ホタテ“中国再開”に期待と不安 価格高もリスク懸念

はじめに

長らく続いた中国による日本産水産物の禁輸措置が一部緩和され、ホタテの輸出再開が注目を集めています。
国内で滞留していたホタテ在庫の行き先が開けるという期待が高まる一方、漁業関係者の間には新たな不安も渦巻いています。
価格高騰のリスク、中国依存の再燃、そして日本の水産業の今後――。
本記事では、「中国再開」というニュースの裏側にある期待と懸念をわかりやすく解説してまいります。

第1章:なぜ今、中国向けホタテ輸出が再開されたのか?

■ 中国による輸入停止措置の経緯

2023年8月、日本の東京電力福島第一原発からの処理水海洋放出開始を受け、中国政府は日本産水産物の全面輸入停止措置を実施しました。これは日本の水産業に大きな打撃を与え、中でも中国依存度の高いホタテ業界では深刻な影響が及びました。日本のホタテ輸出全体のうち、実に半数以上が中国向けであり、多くの漁業者や加工業者が販路を失う事態に直面しました。

この停止措置は、中国側が放射性物質の安全性への懸念を理由に掲げていましたが、背景には政治的な緊張や外交的な駆け引きも複雑に絡んでいたと考えられています。

■ 交渉と外交努力の積み重ね

その後、日中間では外交ルートや業界団体を通じて粘り強い交渉が重ねられました。日本政府は国際的な科学的評価を根拠に安全性を強調し、IAEA(国際原子力機関)などの監視体制もアピール材料としました。これに加え、経済的にもホタテの加工拠点として重要な役割を担ってきた中国国内の業者側からも輸入再開を望む声が高まっていたとされています。

こうした複数の要素が重なり、2025年春、中国は一部地域・業者を対象に試験的な輸入再開に踏み切り、その後段階的に全面再開の動きが加速してきました。

■ 背景にある中国の国内事情

実は、中国国内の加工業者も大きな打撃を受けていました。中国のホタテ加工業は、北海道などから冷凍ホタテを輸入し、殻むきや加工作業を行い、米国や欧州などへ再輸出する「加工貿易」の形態が主流です。そのため、輸入停止は中国国内の雇用や経済にも影響を与えていたのです。

中国政府としても自国経済への悪影響を最小限に抑える必要性があり、今回の輸入再開は、経済合理性を優先した妥協策とも言えるでしょう。

第2章:価格高騰の背景と国内・現地市場への影響

■ 急速な需要回復による価格の押し上げ

中国による輸入再開が発表されると、ホタテ市場は瞬く間に反応を見せました。再開直後から中国のバイヤーが活発に動き出し、各漁協・卸売市場に中国向けの買付が殺到しました。もともと輸入停止期間中に日本国内で在庫が積み上がっていた一方、再開を見越して在庫調整を進めていた業者も多く、需給バランスが一気に買い手有利へと傾き、価格が急騰したのです。

さらに、中国の旺盛な消費意欲が拍車をかけています。中国ではホタテが高級食材として人気が高く、贈答用や高級レストラン向けの需要が安定しています。特に春節(旧正月)や国慶節などの大型連休前には需要が膨らむ傾向があり、こうしたイベントに合わせた仕入れが価格上昇に直結しています。

■ 国内市場への影響と消費者の負担

ホタテの価格高騰は当然ながら、日本国内の消費者にも影響を及ぼし始めています。スーパーや飲食店では、刺身用ホタテや冷凍ホタテ製品の価格が上昇し、庶民の食卓からやや遠のきつつある現状があります。

特に影響を受けるのが回転寿司チェーンや居酒屋などの外食産業です。これまで比較的安価に提供されていたホタテ寿司やホタテバター焼きといった人気メニューの仕入れ価格が上がり、メニュー改定や価格転嫁を余儀なくされている店舗も少なくありません。

また、業者間の買付競争も激化し、一部では先物取引のような形で「先取り買付」を進める動きも見られています。こうした過熱感は、供給不安をさらに煽る要因にもなりかねません。

■ 加工拠点としての中国復活が生む二次的影響

中国は単なる消費国というだけでなく、世界最大級のホタテ加工拠点でもあります。日本から殻付きホタテを輸入し、中国国内で貝柱と貝殻に分け、冷凍貝柱として欧米や東南アジアに再輸出する「加工再輸出モデル」が長年築かれてきました。

輸入停止中、この加工流通が途絶えたことで、代替供給先を模索していた米国やEU向けの市場にも混乱が生じていました。今回の再開により、この国際流通網が再稼働し始め、世界全体のホタテ供給構造にも変化が生じています。

■ 一方で漁業者には追い風も

価格上昇は水揚げする漁業者側には追い風となる面もあります。高値で取引されることで収益性が改善し、燃料費や人件費の高騰に悩む現場にとっては一時的な救いとなります。ただし、過剰な高騰はバブル的様相を呈しやすく、長期的には安定した価格形成が望ましいと言えるでしょう。

第3章:期待とは裏腹の“不安”――品質・供給・リスクの視点から

■ 外交リスクが残る不安定な市場構造

今回の中国再開は日本のホタテ業界にとって大きな追い風となりましたが、一方で外交リスクという“足元の不安定さ”は依然として残されています。中国による輸入停止措置は、いわば「政治判断」で行われた面が強く、今後の両国関係次第では再び制限や規制が発動される可能性も否定できません。

例えば、今後も処理水放出の進展状況や国際情勢、台湾問題などを巡る日中の摩擦が高まれば、今回の措置撤回も再び政治カードとして使われるリスクが潜在しています。ホタテ業界は常にこの「政治の波」に翻弄される状況が続く可能性があるのです。

■ 加工依存の危うさと国内加工体制の課題

中国は世界最大のホタテ加工国ですが、日本のホタテ産業はその中国の加工能力に大きく依存してきました。日本国内でも加工設備を拡充しようという動きはありましたが、人件費やコストの問題から十分な規模に育っていないのが現状です。

万が一、中国との関係が再び悪化すれば、「殻むき加工できる先がない」という問題に直面します。これは単なる輸出問題ではなく、国内での供給確保・価格安定の面でも大きな課題となります。今後、日本国内での加工能力の強化や代替市場の育成は、国としても本格的に取り組むべき喫緊の課題と言えるでしょう。

■ 過熱する“価格高騰”バブルへの警戒

急激な価格上昇は、いわゆる“バブル化”を招く恐れもあります。高値が続けば、漁獲圧力が強まり、資源管理が甘くなる懸念も出てきます。ホタテは2~4年で出荷できるまで成長する資源であり、稚貝の育成や海域の環境管理が重要です。

漁獲の乱獲や環境負荷が高まれば、将来的な資源枯渇という深刻なリスクが現実化しかねません。日本は長年にわたり、サステナブルな漁業管理を心掛けてきましたが、高値の誘惑に負けずに冷静な資源管理を維持することが強く求められます。

■ 消費者離れによる「需要の逆転現象」も

価格高騰が長期化すれば、消費者の財布の紐は固くなり、「買わなくなるリスク」もあります。高級品となったホタテが家庭の食卓から敬遠されるようになれば、いずれ需給バランスは一転して崩れるかもしれません。これは生産者・流通業者双方にとっても深刻な打撃となります。

短期的な利益ではなく、中長期で安定した価格形成を目指す仕組みづくりが今後の安定成長のカギを握ります。

おわりに

ホタテの中国向け輸出再開は、日本の水産業界にとって明るい材料である一方、外交・価格・資源といった多面的なリスクも内包しています。特にホタテは、日本の誇る高品質な海の幸であり、長く安定的に供給し続けることが重要です。

今後も冷静な資源管理と、国内加工体制の強化、多様な輸出先の開拓が求められます。そして私たち消費者も、「高騰しているから仕方がない」と思うのではなく、正しい知識を持って水産資源と向き合っていく必要があるでしょう。

魚は自然からの大切な恵みです。ホタテの未来もまた、私たち一人ひとりの選択と関わり方に委ねられているのかもしれません。

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