
もくじ
はじめに
2025年7月10日早朝、北海道・釧路港においておよそ3年ぶりとなる流し網サンマ漁の初水揚げが行われました。漁獲量は約170〜175kg(推定1,300匹)と決して多くはありませんが、1尾175g前後の大ぶりな魚体がそろい、初競りではキロあたり25万円という過去最高値の“ご祝儀価格”を記録。地元鮮魚店では1匹5万円で並び、わずか20分で完売しました。FNNプライムオンラインUHB:北海道文化放送
この出来事は長引く不漁と価格高騰に悩むサンマ業界にとって、久々の明るい話題となり、かつて“サンマの街”と呼ばれた釧路ブランド復興の兆しとして注目を集めています。
第1章:3年ぶり初水揚げの舞台裏──数量・サイズ・価格のリアル
1. 漁解禁と水揚げデータ
2025年7月10日午前4時ごろ、道東沖で操業していた小型流し網漁船が釧路港に帰港しました。流し網漁の解禁は2022年シーズン以来およそ3年ぶり。今回の漁獲量は約175kg(推定1,300匹)で、最大サイズは1尾175gの大物が確認されています。北海道新聞デジタル北海道ニュースリンク
量としては全盛期に遠く及ばないものの、近年100g前後が主流だったことを思えば「数より型」のインパクトは絶大です。
2. 競り値はキロ25万円──過去最高のご祝儀相場
午前7時、釧路市地方卸売市場で始まった初競りでは、キロ当たり25万円という過去最高値が付与されました。これは2022年の最高値(6万3,000円)の約4倍に相当し、関係者の間からは「かつてないご祝儀値」と驚きの声が上がりました。毎日新聞
高値を支えたのは、大型サイズと久々の“初物”という希少性に加え、地元消費者やメディアの注目を集めたい業者の思惑も重なったためとみられます。
3. “1匹5万円”が20分で完売
競りで落札した地元鮮魚店は、卸値に合わせて1尾5万円で店頭販売を実施。用意した10匹はわずか20分で完売しました。購入客は「ダイヤモンドは無理でも“光もの”なら記念になる」と笑い、話題性は抜群でした。FNNプライムオンラインUHB:北海道文化放送
観光客向けのPR効果も大きく、「今年こそ釧路でサンマを食べたい」という問い合わせが相次いでいるそうです。
4. 高値は朗報か、それとも警鐘か
今回の超高値は“祝い値”として歓迎される一方、「庶民の魚」が手の届かない高級魚になる恐れも指摘されています。漁獲量が伴わなければ価格は高止まりし、消費者離れが進むリスクがあります。釧路ブランドを再興するには、資源と価格のバランスをどう保つかが大きな課題です。
第2章:大型サンマ出現の背景──海洋環境と漁獲圧の変化
親潮の南下で“居着き”条件が整った
JAMSTEC の衛星解析によると、2024 年冬〜2025 年春にかけて北海道東方の暖水渦が縮小し、親潮が例年より南へ張り出しましたjamstec.go.jp。釧路沖の表層水温は 14 ℃前後で推移し、サンマが脂肪を蓄えながら沿岸に長期滞在しやすい環境が形成されました。こうした「適水温+豊富な餌」の条件が、体重 175 g クラスの大型個体を育んだとみられます。
プランクトン豊富化と餌環境
親潮が運ぶケイ素系栄養塩はカイアシ類などのプランクトン増殖を促します。道東沖では 5 月以降プランクトン濃度が平年比で高めに推移し、サンマの採餌効率が向上したことが水産研究機関の観測で示されていますisiuo.co.jp。十分な餌が確保できたことで、大型化に必要なエネルギーが魚体に蓄積されたと考えられます。
公海漁獲枠削減で“沖取り”プレッシャーが緩和
北太平洋漁業委員会(NPFC)は 2025 年漁期の公海総漁獲枠を前年比 10 %削減し 12 万 1,500 トンに設定しました北海道新聞デジタル。中国・台湾船を中心とした沖合漁獲圧がわずかに緩んだことで、成長途中の群れが沿岸まで残存する割合が高まった可能性があります。
黒潮大蛇行の縮小も追い風
7 年ぶりに黒潮大蛇行が縮小傾向となり、黒潮系暖水の北上が抑えられた結果、親潮と黒潮の境界域が道東沖に停滞。冷水・暖水が適度に混ざる“混合域”が長く維持されたことで、サンマの好水温帯が岸寄りで保たれましたウェザーニュース。
「偶然の好条件」か「資源回復の兆し」か
研究者は今回の大型化を「環境と漁獲圧がたまたま噛み合った『スポット的幸運』」と分析し、資源自体が劇的に回復したわけではないと指摘します北海道新聞デジタル。つまり大型サンマは朗報である一方、来季以降も同様の群れが見込めるかは不透明です。今後も漁況観測と国際資源管理の強化が不可欠と言えるでしょう。
第3章:釧路ブランド復活への課題と展望
1. 量をどう確保するか
大型サンマが戻ったとはいえ、水揚げ量はわずか 170 kg。地元市場や飲食店に行き渡らなければ「ブランド復活」とは言い難いのが現実です。
- 資源評価の強化
漁期中は週次で来遊量をモニタリングし、群れが小さい年は早めに漁獲制限をかけるなど“守りの漁法”を徹底する必要があります。 - 網目・操業時間の最適化
夜間の灯火と網目を調整し、未成魚を極力逃がす取り組みがすでに漁協内で議論されています。
2. “高値のまま”か“庶民の魚”か
今回のキロ 25 万円は祝儀相場であり、ずっと続けば一般家庭には手の届かない高級魚になりかねません。
- 二段階価格制
大型(2L 以上)は高付加価値ルートへ、小型・中型は量販店や加工用として分けることで、漁師の手取りと消費者価格のバランスを保つ戦略が有力です。 - 冷凍技術の活用
急速凍結した “生食用冷凍サンマ” を EC 直販すれば、旬の鮮度を全国へ届けつつ地元への観光誘客も図れます。
3. 観光・外食との連携強化
サンマ目当ての来訪者を呼び込むには、港でのイベントだけでなく市内回遊の仕掛けが欠かせません。
- サンマメニューを提供する飲食店を地図アプリで可視化
- 初競りライブ配信とあわせて「釧路サンマフェア」スタンプラリーを実施
- ホテルと漁協が提携し、漁船見学や夕食コースをセットにしたツアー商品を販売
4. 国際資源管理への働きかけ
釧路だけが努力しても、公海で大量に漁獲されれば元の木阿弥です。漁協と道、国は連携し、NPFC の TAC(総漁獲枠)見直しや違法漁船取り締まりを継続的に要望する必要があります。国際資源管理が前進すれば、沿岸に来る“太いサンマ”を再び安定的に狙える環境が整います。
5. ブランドを守る“物語”づくり
釧路のサンマが選ばれる理由は「脂が乗っているから」だけではなく、
- 親潮と黒潮がぶつかる豊かな海
- 早朝に氷締めし、即日市場へ並ぶスピード感
- 漁師と市場、飲食店が一体となった地域のプライド
――こうした物語が伝わってこそブランドになります。公式サイトや SNS で産地の風景・漁の様子・漁師の声を発信し続けることが、長い目で見れば何よりの価値向上策になるでしょう。
おわりに
およそ3年ぶりに戻ってきた流し網サンマは、釧路港に“希望”という名の追い風を運んできました。大型個体の出現は資源回復のシグナルかもしれませんが、依然として量は少なく、価格も不安定です。守りの漁法と国際資源管理、そして地元が一丸となったブランディング――その三本柱が揃ってはじめて、釧路のサンマはもう一度「庶民の味」として食卓に帰って来るでしょう。
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