
はじめに
魚の名前には、見た目や習性、味わいなどをもとに名付けられたものが数多く存在します。普段は何気なく呼んでいるその名前にも、じつは深い意味や昔の人々の知恵が込められているのです。今回は、思わず誰かに話したくなるような「魚の名前の由来」について、いくつかの代表的な魚を取り上げてご紹介いたします。
第1章:「アジ」は本当に“味”が良いから?
●「鯵」の名は“味が良い魚”の証
「アジ(鯵)」という名前は、そのまま「味が良い魚」という意味を持つとされています。古くは奈良・平安時代から文献に登場しており、すでに当時の人々からも「美味」として評価されていたことがうかがえます。
“味”という評価を名前に含んでいる魚は非常に珍しく、それだけ日本人にとってアジが身近で、価値の高い魚であったことの証でもあります。
●アジの魅力:手軽さと多彩な調理法
アジは脂が程よくのった白身魚で、クセが少なく、誰にでも食べやすいのが特徴です。さらに調理の幅が非常に広く、以下のような料理に適しています。
- 刺身、たたき
- 塩焼き
- 干物
- フライ
- 南蛮漬け
価格も比較的安価なため、日常の食卓に欠かせない魚となっています。特に夏場の「旬のアジ」は脂がのっており、「トロアジ」と呼ばれることもあるほどです。
●代表種「マアジ」とは?
私たちが普段よく口にしているアジは、「マアジ(真鯵)」という種類です。日本近海で広く漁獲されており、特に瀬戸内海や九州沿岸のものは品質が高いとされています。
春から夏にかけてが旬とされ、身のしまりと脂のバランスが絶妙です。この季節のマアジは、シンプルな塩焼きでも格別な味わいがあります。
●英語名「horse mackerel」との違い
「アジ」は英語で「horse mackerel(ホース・マカレル)」と呼ばれます。これは「馬のサバ」という意味で、姿かたちが馬の顔に似ている、または泳ぎが力強いことが由来とされています。
つまり、日本では「味」を重視して名付けられ、英語圏では「外見や動き」を重視しているのです。この違いは文化による視点の違いを感じさせ、非常に興味深い点です。
●アジという名前に込められた思い
アジの名前には、その美味しさ、扱いやすさ、そして庶民の魚としての長い歴史が詰まっています。普段何気なく食べているアジも、その名前の背景を知ることで、一層愛着がわくのではないでしょうか。
第2章:サバが“サバを読む”の語源?
●サバの語源と「鯖」という漢字の意味
「サバ(鯖)」という魚の名前には、一見して意味がわかりづらい漢字が当てられています。この「鯖」という字には「青い魚」という意味があり、実際、サバの背は美しい青みを帯びた模様が特徴です。
しかしそれ以上に注目されるのが、サバにまつわる慣用句――「サバを読む」という表現です。これは、年齢や数量をごまかす意味で使われることが多いですが、この言葉が生まれた背景には、サバという魚の特性が深く関係しています。
●「サバを読む」の由来とは?
「サバを読む」という表現の語源は、江戸時代の魚市場にまでさかのぼります。当時、サバは非常に傷みやすい魚として知られており、時間との勝負で売りさばかなければならなかったため、魚屋は数をいちいち丁寧に数えてはいられなかったのです。
そのため、「数をごまかす」「早口で適当に数える」ことが日常的に行われていたとされ、これが次第に「正確な数を言わずに適当な数を言う=サバを読む」という言い回しとして定着したのです。
たとえば、箱に30匹入っていたとしても、「40匹入ってます!」と勢いよく売ったり、逆に20匹くらいでも「30くらいかな」とアバウトに見積もったりするような場面があったと考えられます。
●なぜサバはそんなに傷みやすいのか?
サバは脂が豊富で水分も多い魚です。そのため、気温が高い日などは特に、すぐに劣化が始まってしまいます。現代のように冷蔵技術がなかった時代には、朝獲れたサバをその日のうちに売り切る必要がありました。
実際、「生のサバは刺身にして食べてはいけない」と教えられた方も多いでしょう。これは寄生虫アニサキスの問題もありますが、それ以前に、時間の経過とともに急激に鮮度が落ちる魚であるという前提があるからです。
そのような背景から、魚市場ではとにかく「急いで売る」ことが第一。数を正確に把握することよりも、「すばやく売り切る」ことが重要だったのです。
●現代のサバ事情:焼き・缶詰・しめサバ
現代においても、サバは非常に人気のある魚です。代表的な食べ方には以下のようなものがあります。
- 塩サバ(焼き):シンプルな塩焼きでも、脂の甘みが際立ちます。
- 味噌煮:骨まで柔らかくなる味噌煮は家庭料理の定番。
- しめサバ:酢で締めることで、サバの旨味と香りが引き立ちます。
- サバ缶:保存性が高く、栄養も豊富で、非常に人気の高い加工食品です。
なかでもサバ缶は保存食としても注目されており、DHAやEPAといった健康成分を手軽に摂れる優秀な食品として、今やスーパーの定番商品となっています。
●サバの名前に込められた庶民性
「サバ」という魚の名前は、語源的には「小さいもの・すばしこいもの」を意味する古語に由来するといわれています。実際、サバは泳ぐ速度も速く、回遊性の強い魚です。その活発な動きと、流通の難しさ、そして庶民的な食卓での存在感は、まさに“庶民の魚”という名にふさわしいでしょう。
また、傷みやすさがかえって個性となり、加工法や料理法の工夫を生み出してきた点も、サバという魚の面白さのひとつです。
第3章:イワシの名前に隠された哀しき理由
●「イワシ=弱し」?名前に込められた評価
「イワシ(鰯)」という名前は、漢字からも想像できるように、「弱い魚=弱し(よわし)」からきているとされます。これは諸説あるものの、有力な説の一つです。イワシは水揚げされた直後から急激に傷み始め、鮮度を保つのが非常に難しい魚として知られてきました。
また、小型で身も柔らかく、力も強くない印象から、漁師たちの間で「弱い魚」として扱われていたことが名前の由来に反映されているのです。つまり、名前からして“儚さ”を背負わされた魚とも言えるでしょう。
●江戸時代のイワシ:肥料と庶民食の両極端な評価
意外に思われるかもしれませんが、江戸時代のイワシは主に農業用の肥料(干鰯=ほしか)として使われていました。大量に獲れるイワシを乾燥させ、それを田畑に撒くことで肥料としたのです。その姿から、イワシは“使い捨ての魚”という印象を持たれることもありました。
一方で、庶民の食卓には欠かせない重要なタンパク源でもありました。刺身には向かないほど傷みやすいがゆえに、焼き物や煮物、そして干物として活用されていたのです。このように、価値の低い肥料として見られる一方で、家庭では大切に食されていたという二面性を持った魚でもあります。
●群れで生きる魚の悲哀
イワシは非常に大きな群れをつくって泳ぐ魚です。この習性から、天敵であるマグロやカツオ、サメ、さらには人間にとっても非常に“見つけやすい”魚種でもあります。一網打尽にされやすく、捕食される側としての運命を背負ってきたのです。
このような生態もまた、「弱い」という印象に拍車をかけたと考えられます。まさに、“数で勝負するしかない魚”――それがイワシの宿命とも言えるのです。
●栄養価は非常に高い万能魚
名前に「弱し」とついているイワシですが、その栄養価は驚くほど高いのです。DHA、EPAといった青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸を豊富に含み、血液をサラサラにする効果が期待できます。
また、骨ごと食べられるためカルシウムも豊富。育ち盛りの子どもや、高齢者の骨粗しょう症対策にも適しています。ビタミンDやB群も含まれており、まさに栄養の宝庫とも言える存在です。
つまり、名前に反して「非常に強い栄養価を持つ魚」なのです。外見や保存性だけで評価するのではなく、その内側にこそ真の価値があるということを、イワシは教えてくれます。
●現代におけるイワシの復権
現在では、イワシは単なる「安い魚」ではなく、健康食品としての注目を集めています。刺身で食べられるほど新鮮な「生イワシ」が手に入る地域では、脂ののった身の美味しさに驚かされる方も多いでしょう。
また、「オイルサーディン」や「イワシの蒲焼き缶詰」といった加工品も人気があり、保存性と栄養価のバランスが見直されています。
「イワシ=弱し」ではなく、「イワシ=賢く使えば最強の魚」と捉えるべき時代が来ているのです。
おわりに
魚の名前には、見た目や味わい、生態や歴史など、さまざまな意味が込められています。日常の食卓にのぼる身近な魚たちも、名前の由来を知ることで、より深く味わい、楽しむことができるはずです。次に魚を手に取るときは、ぜひその名前の背景にも思いを馳せてみてください。
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