
もくじ
はじめに
私たち人間は水がなければ生きられません。体の約6割は水分でできており、1日でも水を飲まなければ命にかかわります。では、海や川で暮らす魚たちはどうしているのでしょうか?
「魚は喉が渇かないの?」という疑問を持ったことがある方も多いはずです。実際、魚も生きるためには体の水分バランスを維持する必要があります。しかし、魚の世界では「水を飲むか・飲まないか」は種類によって異なり、さらにその仕組みは人間とは大きく違います。
特に、塩分の濃い海で暮らす海水魚は水を飲む必要があるのに対し、淡水に暮らす川魚はほとんど水を飲まないという大きな違いがあります。これは、「浸透圧」という体内の塩分濃度を調整する仕組みと深く関係しているのです。
この記事では、まず海の魚と川の魚の環境の違いを整理し、次に海水魚がどのように水を飲んで体を維持しているのかを解説。最後に淡水魚との比較や、人間の体との共通点についても触れていきます。
きっと読み終えたころには、「魚も喉が渇くのか?」という素朴な疑問がスッキリ解決することでしょう。
第1章 海の魚と川の魚――水分補給をめぐる環境の違い
1-1 魚にとっての最大の課題は“水分バランス”
魚は常に水の中で暮らしていますが、ただ泳いでいるだけで安心というわけではありません。
実は魚にとっても 「体内の塩分と水分のバランスをどう保つか」 が大きな課題なのです。
人間の体液は約0.9%の塩分濃度を持ちますが、
- 海水:約3.5%と体液より濃い
- 淡水:ほぼ0%に近い
という環境の違いがあります。この差が、魚の体に大きな影響を及ぼします。
1-2 海水魚の場合――体から水が奪われる環境
海水魚は、外界の塩分濃度が自分の体液よりも高いため、体の水分が外に出ていくリスクを常に抱えています。
つまり、海に住む魚は「脱水しやすい環境」にいるのです。
そのため、海水魚は積極的に海水を飲み込み、体内で塩分を調整しながら水分を確保するという戦略をとっています。
1-3 淡水魚の場合――水が勝手に体に入ってくる環境
一方、淡水魚は逆に体液より外界の塩分濃度が低いため、水がどんどん体に入り込んでくる状態にあります。
このままでは体が水浸しになってしまうため、淡水魚は基本的に水を飲まないのです。代わりに腎臓から「薄い尿」を大量に出し、余分な水を外に捨てています。
1-4 “喉の渇き”の正体
人間は体液の浸透圧が乱れると「喉の渇き」を感じます。魚も同じように、外界の環境に応じて体が反応します。
- 海水魚 → 体が水を欲する=水を飲む
- 淡水魚 → 体が水を拒む=飲まない
つまり魚も「喉の渇き」に相当する仕組みを持ち、環境に応じた行動をしているのです。
まとめると、
- 海水魚は「水分を失いやすい」ので飲む
- 淡水魚は「水分が入りすぎる」ので飲まない
これが魚の大前提となる大きな違いです。
第2章 海水魚の秘密――海水を飲んで生きる浸透圧調整の仕組み
2-1 海水魚は本当に海水を飲んでいる
人間が海水を飲むと、体液より塩分が高すぎるため逆に脱水を起こしてしまいます。ところが海水魚は、生きるために海水を飲み続けているのです。
研究によると、海水魚は一日に自分の体重の数%に相当する量の海水を飲み込みます。
2-2 腸で“水分だけを選択吸収”
海水を飲み込むと、大量の塩分も一緒に体内に入ります。では、どうやって体を守っているのでしょうか。
海水魚の腸には特別な仕組みがあり、水分だけを吸収して、余分な塩分を排除しています。
- 水分 → 血液へ吸収
- 塩分 → 体に不要なので捨てられる
これにより「脱水」を防ぎつつ、水分補給を可能にしています。
2-3 エラの“塩類細胞”が塩分を排出する
海水魚の体のもう一つの秘密兵器が エラ です。
エラには「塩類細胞」と呼ばれる特別な細胞があり、体内に入りすぎたナトリウムや塩素イオンを積極的に体外へ排出します。これにより、体液の塩分濃度を人間と同じくらいの0.9%前後に保つことができるのです。
2-4 腎臓の役割:濃い尿を出す
人間とは逆に、海水魚の腎臓は少量の“濃い尿”を排出します。
これによって余分な塩分を効率的に体外へ出し、水分の喪失を最小限に抑えているのです。
2-5 サケやウナギのような回遊魚は“二刀流”
サケやウナギのように海と川を行き来する魚は、環境に応じて仕組みを切り替える能力を持っています。
- 海にいるとき → 海水を飲んで塩分を排出するモード
- 川にいるとき → 水を飲まず、余分な水を尿で捨てるモード
この柔軟さが、長距離を移動して生き抜く力の源なのです。
第3章 淡水魚との比較と、人間の体との意外な共通点
3-1 淡水魚は“飲まない派”
第1章でも触れたように、淡水魚は周囲の水が体液より薄いため、水が自然に体へ入り込んでしまう環境にあります。
そのため、淡水魚は基本的に水を飲まず、腎臓から大量の「薄い尿」を出して、余分な水を体外へ排出します。
この仕組みは、まるで人間が水分を取りすぎたときに頻繁にトイレに行くのと似ています。
3-2 海水魚と淡水魚の対比
魚の水分調整を整理すると、次のようになります。
- 海水魚
- 海水を飲む
- 腸で水分を吸収
- エラと腎臓で塩分を捨てる
- 少量の濃い尿を出す
- 淡水魚
- 水を飲まない
- 体に入ってくる余分な水を尿で出す
- 大量の薄い尿を出す
同じ「魚」でも、まるで正反対の仕組みを持っているのが面白いところです。
3-3 サケ・ウナギに学ぶ“柔軟な体”
サケやウナギのように海と川を行き来する魚は、エラや腎臓の働きを切り替えて対応しています。
- 海水モード → 塩分を排出
- 淡水モード → 水を排出
これは「浸透圧調整」という高度な能力で、人間の体では到底真似できません。
3-4 人間との意外な共通点
人間もまた「浸透圧のバランス」で喉の渇きを感じます。例えば、
- 塩辛いものを食べたあと → 体液の塩分濃度が上がる → 喉が渇く
- 水を飲みすぎたあと → 尿が近くなる
この仕組みは魚の「飲む・飲まない」とよく似ています。違う生き物であっても、生きるために体液のバランスを整える仕組みは共通しているのです。
3-5 結論:魚も“喉が渇く”
魚は人間のように「喉の渇き」を感じて水を探すわけではありませんが、体液のバランスを保つために「飲むか飲まないか」を選んでいます。
つまり、魚も環境に応じて “喉の渇き”に相当する生理反応を持っている のです。
おわりに
「魚は喉が渇かないの?」という素朴な疑問に対して答えるなら――
- 海水魚は渇く=水を飲む
- 淡水魚は渇かない=水を飲まない
ということになります。
人間と同じように魚も「体液のバランス」を守るために、環境に適応しているのです。海や川の魚を眺めるとき、そんな体の仕組みに思いをはせると、もっと興味深く感じられるのではないでしょうか。
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